こんな人には今まで出会ったことがない。この寮にはなぜだか変な人が多いけど、この人は群を抜いておかしい。そう思う自分のほうが、おかしくなってしまったのかもしれないけれど。
こんな風に嘘も吐かず、人の心を捉えてしまう人にははじめて会った。老若男女、魅了してしまう。見ている方が驚くくらい真剣な表情をしたかと思えば、子供みたいに無邪気に笑う。なんてことない動作が綺麗で、視線を引き寄せられる。どんな人にも、分け隔てなく接する。それは彼の優しさであることには変わりないけれど、残酷だとも思う。本当に、誰にでも、その笑顔で接するのだろう。
「どうかした?」
「・・いや、なんでも」
無意識に見つめていたらしく、視線に気がついた池田が話しかけてくる。口ごもってしまう自分に自己嫌悪。
なぜこうも違うのかと思う。未熟で不安定な高校生である事には変わりないのに、彼は他と違って見える。そして自分とは正反対だ。違ってよかったとも思う。同じであったら、特別な感情を抱くことはなかったから。
「・・・暇なら、散歩にいかない?」
いつもと同じ、笑顔。
「散歩?」
平等に向けられる笑顔に、戸惑う自分がいる。
「そう。いやなら無理にとは言わないけど」
「い、いやなんかじゃない。行く」
寮から外に出て少し歩く。どういうつもりで?頭の中を掠めた疑問符は、口には出さないことにした。なんだってよかったし、二人でいる時間が単純に楽しくて嬉しかった。
やがて街が見渡せる場所に出た時、ちょうど夕日が沈むところだった。
「・・・わあ」
夕暮れってこんなにきれいだったっけ。
「明日は晴れだって」
彼にもらったものは計り知れず大きい。時間が止まればいい、なんて考える自分を僕は、知らなかった。自分がこんな風に人を想うことができるなんて、知らなかった。人を想うことで、世界に色がつくなんて、知らなかった。
彼の特別、とはなんだろう。彼が選ぶのはどんな人? こんなことを考えている事自体、馬鹿げているのはわかってる。誰にも言えないし、そもそも胸の内を話せる相手なんていないけれど。
大切に思える時間がある事、今はそれだけで良かった。それが僕の幸せのかたち。