「三宅先輩、こっち終わりましたよ」
「ありがとうー!助かったよ、ほんとにいつも、ありがとうね」

 いつからだっただろう、きっかけはあまり思い出せない。いつのまにか、あの笑顔が、俺だけのものになったらなあ、なんて思っている自分に気がついた。だからって気持ちを口にするつもりは微塵もなかった。そう、だって、俺はこのひとの、「笑顔」がすきなんだ。困った顔や悩んだ顔なんて、させたくない。ずっと笑った顔だけをみていたい、って思ってるわけじゃないけど、自分が原因でその笑顔が曇るのが怖い。考えるだけでも嫌な気分になる。

「こんなに手伝ってくれるの、八木沢君くらいだよ」
「俺からだ動かすのすきなんで」
「十文字なんて作業したあとの匂いさえイヤがるからさ。同室なのに、嫌われてるかなあ?」

 笑った顔をみるのが好きなのに、それが自分に向けられるのをみると、なんでこんなに締め付けられるような気持ちになるんだろう。俺がイメージしてた恋ってやつ、人をすきになるってことは、こんなに痛いものじゃなかった。もっとふわふわして、あったかくて、楽しいものだと思ってた。
 俺は自惚れでなく、三宅先輩が俺のことをすきだということを知ってる。でもその「すき」と、俺の「すき」とは、 それに含まれる意味合いだって、重さだって、まるで違う。

「俺は三宅先輩のこと、好きですけどね」
「・・・ありがとう、僕も八木沢君がすきだよ」

 俺はほんとうにバカだ。俺の一番ほしい言葉。だけど違う、これは俺の欲しい「すき」じゃない。そんなの、わかってる。先輩が何気なくいった言葉だって俺にとってはしまっておきたい、大事なものなんだ。一緒にいたら楽しくて、もっと、もっと、どんどん我儘になる自分が、嫌いだ。逢いたいのに逢いたくない。こんなことばっかり考えてる俺を知ったら、あなたはどんな言葉をくれるのかな

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